★月守青蓮さまより(相互記念)



アカの破顔





建物に点った以外では闇夜に輝く月くらいが、明かりの役割を果たしている。そんな中で時折キラッキラッと輝く星の瞬きのような何かがあった。近づいて行けば見えるその光は、金属同士がぶつかる音とともに光を放ち続ける。白刃がぶつかる音だけが響き、持ち主であるそれぞれの男と女はそのことだけに集中していた。男の方は黒髪を後ろに撫でつけ長い後ろ髪を引き上げ結い紐で持って立ち上がらせている。肌蹴ることも構わず着物を着ている。が袴を履いてはなく、太ももまでのぴったりした物を着物の下に履いている。男の足は草履がある。そして女は男と違い、フード付のダウンを着ている。笑うその顔は女の浮かべる柔らかさが微塵もない。日本刀と呼ばれる代物をぶつけ合う姿は鬼気迫るものがある。金属がぶち当たる音が響き、響く。
「てめえっ中々やるじゃねーかっ」
男が離れては叫んだ。
「ん?」
女が男に対峙するのを止めて、明後日の方を見た。
「あのさ、おっさん」
女が男を見ようともしないで、口を開いた。出てきた言葉は荒っぽい言葉使いだ。
「誰がおっさんだ、誰が」
男が唾を飛ばしながら叫ぶが、女は明後日の方向を刀で示してくる。そっちに男が眇めながら集中すると、やっと男も気付いた。
「敵、か」
と。
女はにやりと笑い、彼等から見て左側を男に刀で示した。
「そっち、やって。こっちは私がするから」
「俺はタイマンしか出来ないんだよ」
男が言うと、女は顔を歪めて男を見て、笑んだ。

「何言ってるかな。刀を合わせた目の前に敵を視認してそれが1人ならタイマンでしょ?なら全部倒すのに1人1人視認してやれば良いだけでしょうが」

瞬時にそれをやってのけろと無茶なことを女は言う。けれど男は気に入った。同じように笑うと男は言った。
「俺はノブナガだ」
「私はリンドウ」
2人はそう言い合うと、左右に分かれて駆けた。リンドウはまず見えていた一人の胴を切り裂いた。切れて直ぐは血が出ずに、一瞬後にスと赤い線が走りぼたぼたと落ちていく。切り裂かれた痛みで動けないのをいいことに、次の奴を切り裂く。今度は男の顔を縦に。ぱっくりと開いた顔のせいで叫ぶこともままならない。そのまま刀を持った手と共に旋回すると、別人の鎖骨下と足を切り裂いた。リンドウは迷わず前進すると目の前に居た男の腕を切り落とした。筋肉のつき具合から利き腕であろう方を選んで。右に居るものを切りつけ、正面を向き突き刺す。刀を引き抜くと鮮血を浴びることになり、リンドウは舌打ちをした。とんと駆けるとリズムを付けて切り裂いて行く。四方八方の敵に対処し、一人一人切り刻んでいく。べとりとこびりつく血を見るが、周囲を取り囲む数人の男達を一瞥すると、ノブナガの方に駆けて彼の背に背をぶつけて刀を構えた。
「あいつら何?」
「能力者だな」
背から響く声にリンドウはきゅっと眉間に皺を刻んだ。「能力者」という言葉が何を示すものかは分からないが、漂う雰囲気が普通でないことは明らかだ。刀を構えたまま周囲に注意を払う。能力者というものが何をしてくるのかまでは予想がつかないがリンドウ自身が知らない何かを使うものだという推測は出来る。リンドウはぞわりと体の前面を逆撫でされるような感覚に襲われ、目を見開いた。
「リンドウは念を使えねーんだから、危なくなったら逃げろよ」
「念……」
ぞわりと神経を逆撫でするような気配が、突如リンドウの前で大きく膨らんだ。刀で嫌な空気を切り裂こうとすると、ノブナガが反対側にリンドウの身を追いやった。
「こっちは俺の敵だ。リンドウは、そっちをたのっ」
む、と言おうとしたノブナガの声が止まった。リンドウの前に彼女の肩くらいの高さに浮かぶ少女が居たからだ。少女は笑みを浮かべると両手を併せ、球体の光を浮かび上がらせた。そしてそこから少女の3倍はあろう男の腕が現れた。
「にげ」
リンドウは成す術も無く拳に吹っ飛ばされた。何本か木を背中で折っていくと大木を背に倒れてしまった。ノブナガはそれを目にして少女を切りに跳んだ。しかし少女はノブナガが自身に向かって来ると同時に、姿を消した。

「クソが」

刀を扱う人間など今では珍しい。それもノブナガ自身と同等くらいの使い手となると、もっと見つからない。やっと楽しめる相手が現れたと思ったのが、念を覚えていなかったせいで死んだ。
クソが。
ノブナガは呟いた。クソが、クソが。と。簡単に死なせてやるものか。ノブナガが構えながら能力者達を睨みつけた途端、吹っ飛んだリンドウが起き上がったのが見えた。
リンドウは背中をぶつけ普通ならば死んでいなくてはおかしい状態のものを、にいと口の端を上げながら立ち上がった。眇めて確認をすると、リンドウの体の周囲にあるオーラが垂れ流しではなくなっている。

「なるほど、把握した」

リンドウは声を一段低くさせて言うと、ノブナガの元まで駆けて来た。能力者はリンドウが生きているということに驚き反応できないでいる。
「ヘッ、生きてやがったか」
「ああ、悪い?一応こういう感じになったけど、さーてとどうしてくれようか?結構痛かったんだよね、さっきの……やられた分は100万倍にして返してあげないと」
ゆらりと刀を上段に構えなおしたリンドウは能力者達を睥睨する。そしてオーラを刃に終結させていく。
「こういうのもありだよね」
「けどよ。そうすると本来あるべき防御がなくなんだが」
「そんなもの攻撃を避ければ良いだけの話だ。さあ、行こうか」
リンドウは刀にオーラを纏わせて言うと、再び駆け出した。ノブナガはどうしてだか嬉しくなり同じように駆け出した。
オーラを纏わずに居るなら、一撃でも当たればリンドウに大打撃を与えることになる。が、リンドウはオーラの攻撃だろうが銃火器のものだろうが、ひらひらと蝶のように舞ながら避けていく。そして刃を振り下ろし鮮血を噴出させていく。



「シャル」



ノブナガの担当していた所に、敵が雪崩れ込んだのを高場所から見ていたクロロは隣に立つシャルナークを呼んだ。呼ばれて彼も同じように眼下に広がる戦闘を見る。動きに無駄がない。それだけでもクロロが気に入るのも無理はないが、それ以上に彼を捉えているのは動き方だ。
「まるで、舞だな」
クロロは眼下で動くリンドウから目を離さないで言った。シャルナークは嫌な予感がして、クロロを見れば、彼はリンドウから目を離すことなくシャルナークに向けて言った。

「あれが欲しい」

と。
嫌なが予感が当たりシャルナークは額に手を当てた。
そしてもう1度ノブナガとリンドウを見遣る。クロロが欲しがるのも無理のない姿が、そこにあった。ノブナガよりも素早く動いて敵を切りつけている。しかもオーラは刃にあり本体であるリンドウにはない。それが却ってクロロが欲しがる原因だろう。
「旅団に?それとも自分ので?」
シャルナークがクロロに言うと、クロロがやっとシャルナークに顔を向けてきた。そして綺麗な顔を口元だけ歪めた。

「俺のものだ」

決定事項を聞かされ、シャルナークは小さな溜め息を漏らした。





ソファに腰掛けたクロロは膝を叩き、リンドウを呼んだ。直ぐ傍で本を読んでいたリンドウは、顔だけを上げて彼を見てくる。その視線を受けてもう一度膝を叩いた。読みかけの本に栞を挟んで、閉じて硝子のテーブルの上に置いた。そしてクロロの顔が見られるように彼の膝の上に座った。
「何?クロロ」
クロロの肩に手を預けるようにしながら訊くと、彼はリンドウの右腕に手を這わせつつじっと見つめてくる。

「お前を誰も来ることの出来ない部屋に閉じ込めて、俺だけのモノにしたい」

リンドウがクロロの言葉を聞いてくすくすと笑いだした。腕の上で遊んでいた手を彼女の顔に向けてなぞるように指を這わせだす。

「そして「アナタだけなの」って言う私になるのね」

くすくすと笑い、クロロの手を取る。
そして鋭い目を彼に向けた。
「そんな私にクロロは興味を持ち続けるかしら?」
女とは思えない鋭い表情をクロロに向けてくる。クロロはそうだなと言って口の端を上げるしかない。
「持たないな」
「でしょ?それじゃあ、つまらないもの。そんなのが希望なら他にも女が居るものね。なんだったら私が持ってこようか?」
先までの鋭さが何処にいったのかと思われる柔らかな笑顔で、指を上下に動かしながらリンドウはクロロに言った。
「他の女は要らない」
「偶然ね、私も他の男は要らないの」
一緒ねえと首を傾げるとさらりと艶やかな黒髪が滑り下りてくる。
「クロロをそんな風に部屋に閉じ込めてもつまらないわ。欲しい物を欲しいって言って盗みに行く。誰がどんな状態になろうとも眉1つ動かさずに目的をやり遂げる人だから、閉じ込めたら全然面白くないもの」
すべり落ちてきた髪を掴もうとしたが、その前にリンドウの手で後ろに払われてしまう。

「私はクロロを愛しているわ」

きっぱりと言い放たれるがクロロは表情を動かさない。
「言葉は幾らでも吐くことが出来るからな」
「あーもう、身も心もクロロにあげたのに?信用されてないわね」
「手に入れたからこそ、そう思うんだ」
「ふーん」
人差し指を唇に押し当てるとリンドウは背を逸らし、戻ってきた。何か悪戯をしようとするような顔をしている。
「分からない?クロロ」
「ああ、俺にはお前が分からない」
リンドウはあらっとだけ言って笑う。そしてクロロの肩に額を預け、そっと彼を抱いた。
「私が甘えないって知ってる?」
「ああ」
リンドウは微笑を浮かべると、珍しくクロロの額に自分の額を重ねた。静かな場に2人共口を開かないでいた。冷たい空気だけが彼等の間を縫うように動く。

「クロロ」

ぺんと両頬を叩かれ、クロロは少しだけ目を丸くさせてしまう。
「私が魅力的でクロロにものすごーく執着されてるのは、よぉく分かったわ。で、閉じ込めて観賞物にしようと目論んでしまうほどなのもよぉく分かったわ。でもね」

クロロの頭を抱え込むとでもねと囁いた。

「私が甘えるのはクロロだけよ。私が女を見せるのも。閉じ込めて観賞物にしてしまったら、他の対象物が無くなってしまって、いつもの私を見せることがなくなってしまう。それは嫌。戦ってその後で気を緩める場所がなくなってしまうのよ。ずっと気を緩めたままなんてありえない。私がクロロ以外を見ることはないわ。心を奪われることなんて、断じてね。だから、そんな風に言わないで。私の身も心もクロロのものよ」

手に入れたからこそ、零れ落ちてしまう。
他の女ならば簡単に捨てることは出来る。面白いと思っていても一時のことだから。けれどリンドウは違った。戦う姿は舞を舞うようであり、クロロの前でだけ女だ。他の連中に聞いてみれば、誰もがクロロの知る姿など冗談だと言う。

「リンドウ、お前が俺を振るということもあるだろう?」

クロロもリンドウの後頭部に手をやりながら言う。と、リンドウが勢いをつけて体を戻しクロロを見てくる。

「それは絶対にないわっ」

ぺしりと頭を叩かれ、呆然とリンドウを見てしまう。
「ねえクロロ。私がどうして旅団に入らなかったか、分かる?」
「公私混同を避けるためだろう?」
「そ。あくまでも私は貴方の傍に女として居たいの。それともダメなの?」
いや、と短く返答をして腕に掻き抱いた。抱いた感触はクロロしか知らないと分かっている彼は、そうだなと呟いた。
「お願いがあるの」
顔を見ようとするのだと思い、腕の力を緩めるが、リンドウは一向に姿勢を変えようとしない。クロロの肩に顔を埋めたまま言い綴る。

「戦闘で疲れて戻って来たら、ぎゅってして」

声が辛うじて聞き取れる大きさで、クロロはリンドウの方を見ようとする。が俯いていて肝心な顔を見ることが出来ない。

「たまに、そうして焼餅とか焼いて私を困らせて。私も困らせるから。私の戻る場所を忘れさせないでいて」
「ああ。そうしていこう」

クロロに見えないようにしていた顔を見せてきたその色に、彼は驚き微笑を浮かべた。

「うん」

何の目論見もない無垢な笑顔。誰が何を言えるだろう。クロロも微笑を浮かべたまま、リンドウにキスをした。まるで初めてのキスのように、そっと優しく触れるだけのキスを。



月蓮の月守青蓮さまより相互記念に頂きました。
シャルと高みの見物をする団長素敵!ヒロインさんも強い大人の女性オーラがかっこいいです(*>ω<*) ぎゅってしてええええ!!
青蓮さんありがとうございました!

青蓮さんのサイトへはbookmarkからどうぞ!